逃げ出した松の木
むかしむかし、あるところに、いろいろなものにばけては、人とをだましておもしろがっている、わるいタヌキがいました。
あるあつい日のこと。
さかなうりの男をみつけたタヌキが、
「おお、ちょうど腹が空いているときに、さかなうりが。ようし、だましてさかなをとりあげてやろう」
と、みごとなえだぶりのまつの木にばけました。
まつの木の日かげをみつけて、
「ありがたい。ここでひとやすみしていこう」
さかなうりは、にもつをおろしました。
でも、このまえにとおったときには、まつの木など、なかったはずです。
(ははん。これは、いたずらダヌキのしわざだな。よし、からかってやろう)
さかなうりは、タヌキのばけたまつの木にむかって、
「たしかこの木は小判(こばん)の木で、木をたたくと小判がふってくるはずだ。それっ、トントン」
するとタヌキは、全財産(ぜんざいさん)の小判を三まい、さかなうりの頭の上におとしました。
「よしよし。では、もうひとつ、トントン」
さかなうりが、ふたたび木をたたきましたが、タヌキはさっき、全財産をつかってしまったので、もう、なにもおとすことができません。
「・・・しかたない。こんなところか」
さかなうりは、キセルにタバコをつめて一ぷくすると、そのすいがらを、まつのみきにできているくぼみに、プイッとなげ入れました。
こうして、二ふく、三ぷく、すいがらをなげ入れていくと、モクモクと、まつの木からけむりがたちのぼってきました。
タヌキはジッとがまんしていましたが、いつまでもがまんしきれるものではありません。
「アチッ、アチチチチ・・・」
まつの木は、みるみる小さくなったかとおもうと、
「こりゃあたまらん。アチチチチ・・・」
全財産をとられたうえに、おしりにやけどをしたタヌキは、なきながらどこかへいってしまいました。
おしまい