善哉「1」
夏休みが終わり、大学の寮に戻った。ドアを開けた瞬間、黴臭い空気が部屋から漏れ出た。久しぶりに人が入った部屋は、ほとんどスラム化していた。電灯は薄汚れ、ベッドは乱れ、部屋中至るところに埃が積もっていた。床の汚れは特にひどく、元の色が思い出せないほどだ。西向きの部屋で日当たりが悪いため、空気が淀んでいる。たった二か月とはいえ、住む者のいない空間というものはこんなにも荒れるものなのか。私は無意識のうちに首を小さく横に振り、ため息をついていた。同室の三人は、まだ戻ってきていない。私は窓を開けて掃除に取り掛かった。そして、そろそろ部屋の片付けが終わろうという時に、携帯が鳴った。
「兄貴、俺だ。入学手続きが終わった。ということで、今から俺もT大の一員になったんだ!」。従弟の凌の、うれしそうな声が聞こえる。そうだね。大学という夢に騙されている駆け出しの連中はみんな同じだ。ちょっと時間が経ったら、彼らもきっと熱が冷めるだろう。もちろん今、純粋な喜びに水をかけるような言葉は、凌には言わない。
「それでね、思い切って恋愛も始めようと思うんだ」。彼は興奮しながら、これから始まる大学生活への期待を口にした。隣にいたら肩でも叩いてやりたいところだが、携帯だからそうもいかない。
「ところで、兄貴、お前がよく口にする風ちゃんって、確かT大に受かったんだよね。よかったら、紹介してくれない?お互い、手伝ったりできるから。」
「うん、わかった」。私は、急に冷たい声になったのがバレなかったかなと心配しながら、携帯を切った。これから?ふざけるな。少なくとも風ちゃんにはもう「これから」というものはない。あいつはT大に受かっても、T大の一員になるはずがないんだ。永遠に。
そんなことを考えていたら、気分がすっかり暗くなってしまった。私は寮を出て教務課に向かい、授業の登録を済ませた。そして、レンタル自転車で我がF大のキャンパスを一回りしたあと、特に理由もなく近くのT大に行ってみた。